憂梨の愛と葛藤の日々。主にジャンプ・アニメ系統。ジャンプのネタバレは月曜日から。アニメのネタばれは放送日から。ほんのり…嘘です、しっかりヲタ風味につきご注意下さい。女性向(BL)含みます。
2010/06/08 (Tue)
ネックレス、ピアス、ブレスレット。身の回りの装飾品は、実用性よりも美的造形性、要は色やデザインなりの「美しさ」が重視される傾向にある。
美しく装い飾ることが目的である以上当然である訳だが、実用的な品であってもそれが身体の目に触れる箇所に着用される場合は、上記のアクセサリーと同様の傾向が見られると言えるだろう。腕時計が良い例である。
各種ごとに機能に差が少ない(要は時間が正確に分かればいいのだ、むしろそうでなければ時計とは言えない)という点を除いても、文字盤の作りやチェーンの細工がどうであるかに購入の判断基準を設ける人がほとんどだと言えば、世俗的な感覚をお持ちの方にはお分かり頂けるのではないだろうか。
(ちなみに面倒かつ論旨から逸れるので、機能美に関しては敢えて無視していることをご了承願いたい)
殊に目につきやすい顔の周りであれば、余計に外観への比重は増す。
つまり、古くは高額の視力矯正器具及び遮光器具であったものが今やファッションアイテム(いわゆる伊達と呼ばれる類だ)と化し、また一部ではステータス(いわゆる萌え、とかいう、その、アレだ)として扱われていることも、やはりそれが顔という最も目につく部位の一部を彩るからには自然な流れであるということだ。
しかし、ここでひとつ、立ち止まって頂きたい。
冒頭より、身の回りの装飾品(及び実用品)はいかに美への比重が置かれてきたかについてなぞってきた訳であるが、果たして論じるべきは装飾品のまさしく「装飾」の美的観点のみにあって良いものなのであろうか。
発表者としてはむしろ、実用品を含めた装飾品の美的造形性の如何ばかりを問う姿勢を改め、より二項対立的な次元から、言ってしまえば1か0かの次元からの問いを投げ掛けてみたいのである。
余りに勿体ぶって一体何の話かと問われれば、大したことはない、もはやお察しかもしれないが──「眼鏡」の話である。
もはや勝手知ったるなんとやら、の域に達した古泉の部屋は、俺にもそこそこ居心地の良い空間と化してきている。
来訪者を受け入れる態勢を全く整えていなかった住居には当初、棚に揃いのグラスさえ備えられていなかった。
それが機関の福利厚生の手薄さや経費削減の方針によるものなのか、はたまた勤労奉仕者自身の「不徳の致すところ」に類するものなのかどうかはさておき、ようやく男二人が最低限の快適さを得られる空間となったことには、部屋を訪れるなりクッションやらスプーンやらを買いに走った俺の努力に与る所が大きいと言えるだろう。
あまつさえ二人分の歯ブラシすら常備させてしまったのだから文句のつけどころがない(この点に関しては余り言及しないで頂きたいと切に願うばかりである)。
話が逸れた。とにもかくにも現在俺は古泉の家でそれなりにくつろいでおり、つまらない回想に頭を使う程には暇を持て余しているということを察して頂ければ良いのである。
金曜日の放課後、明日は休み、と来れば余りにもお膳立てされているようで若干の抵抗を感じたものの、ずるずると惰性に引き摺られた結果、いつも通り俺は古泉の家に泊まりに行くことになった。
簡単に夕食を済ませたところで俺はテレビと、古泉はパソコンへと、それぞれ別の物に向き合い始めてそろそろ1時間が経つ。
古泉は依然としてキーを休むことなく叩いているが、俺の方はといえばチャンネルの切り替えにもいい加減飽きたところだった。ベッドを背凭れにして床に座り、当たり障りのないバラエティ特番をかけ流しながら、ちらりと横目で古泉に視線をやる。
古泉は制服の上着を脱いだシャツ姿であぐらをかき、食卓と兼用のテーブルの上に置いたノートパソコンの画面を見つめている。古泉の視線が動いて、お、と思ったが、どうやら手元の書類と画面を見比べただけでこちらの視線には気付いていないようである。つまらん。マウスを握り直してまた作業を続行している。
憎たらしい程に整った顔立ちは学校にいる時と全く変わらず、俺に接する態度も概ね、おおよそ、殆ど(大事なことだから三回言った)変わらないが、外観で言うならば一つだけ、家の中では明らかに違うところがある。
古泉が時折鼻の背に手をやること──つまりは眼鏡をしているということだ。
「お前、視力悪かったのか」
古泉が余りにも自然に眼鏡を取り出したものだから、思わず声が上擦ってしまった。
初めて古泉の部屋で勉強会を行った時のことである。
「ああ、そうでした」
一瞬何を言われたのかわからない、という顔をした古泉だったが、俺の視線が自分の目元に釘付けになっていることに気づいて、ブリッジをくい、と動かした。
「念の為、涼宮さんには内緒にしておいて下さいね」
にこ、という音でもしかねんような笑みを見せる。細められた目はレンズの奥にまるまる収まる。
本人に聞くところによると、裸眼でも日常生活にさほど影響はないが、年々少しずつ視力が下がり始めているらしい。家の中でパソコンを使用する時や勉強をする時には眼鏡を掛けるようになったのだという。授業時でもそろそろ使用したいとのことだったが、将来的には機関が推奨するコンタクトを使用する確率の方が高いだろうとの話だった。
そんなにも驚くようなことですか?と問われたことにも驚いたが(機関にもなぜ眼鏡よりコンタクトを指示されたのか今一つわからないのだという。これもまた驚きだ)、いずれにせよ古泉の眼鏡姿が俺にとって心の一部を大きく揺さぶるほど衝撃的であったことは言うまでもない。
カタカタ、と古泉がパソコンのキーを打つ音と共に、銀のメタルフレームが僅かに揺れて蛍光灯の光を反射する。
眼鏡はファッションアイテム、な現代において古泉の眼鏡を形容するならば、どことなく奥ゆかしいというか、まさしく矯正器具本来の有り様であると言えるだろう。視力を矯正するという目的に逸れず、最も忠実に則った結果生まれたものがそれだ、と言っても過言ではない。眼鏡のアレテーが「よく見えること」であるのなら、プラトンも太鼓判を押したに違いない一品だ。
ふむ、いつまでも歯に衣を着せたような物言いばかりをしていては話が進まない。
はっきりと申し上げよう。
ダサい。
平日の昼過ぎ、チャンネルを回した瞬間に明らかに年代物だと判断できるテレビドラマを見かけた時のように、一目でわかる。ダサい。
念の為補足しておくが、銀縁眼鏡を一概に不格好だと括っている訳ではない。かの会長殿や敏腕会社員のようにびしりと決める方々もいらっしゃる(こちらはシルバーフレームと称した方がしっくりきそうだ)。あくまで古泉の眼鏡が垢抜けていないだけなのである。
なんだ、その妙に半径の大きい円を描いたレンズは。視野を余すことなく補えるとでもいうのだろうか。些か大きいどころか過剰と言える寸法だと思うのは俺だけか?
そいつを掛けたまま3D映画用眼鏡でも掛けてみろ。大衆万人が一様に利用できるよう、一部利用者にとってはずり落ちる程若干大きめに設計された最新技術の眼鏡でさえ、規格外だから覆い切れないと泣いて訴えるだろうよ。ああ間違いない。
やけに大きめの丸レンズと銀縁。しかもフレームがやたら光を反射してきらきらと輝くのだ。これだけでも十分に時流からやや外れたものであるとご理解頂けることかと思う。
おまけにその眼鏡の主がそこらの平均的な顔立ちの野郎ではなく、無駄にきらきら輝いた紳士だか王子だかの面をした野郎だから、尚更性質が悪い。体を張った嫌味としか思えない(誰も得する奴がいない)!
ああ、ねじが緩いのかパッドがぐらぐらと揺れている。ずり落ちるのを何度も直すせいか、レンズも指紋がついてやがる(なぜ気付かない!)。手入れしろ!
いかん、憐れみに混じって腹の底がふつふつと煮え立つばかりである。
だが、俺が古泉の眼鏡姿に胃の腑がむかむかとする思いを感じるのは、残念ながら、あまりにも当世風でないとか不釣合だとかといういわゆる容姿に関する問題では無いのである。もっと単純で初歩的な、とてつもなくくだらないがいかんせん譲りがたい理由なのである。
ふう、と古泉の口から溜息が一つ漏れて、キーの音が止まる。マウスを何度か動いた後、シャットダウン音が流れた。作業が終わったらしい。
古泉はぱたんとノートパソコンを閉じて、瞬きを繰り返す。そうして眼鏡のつるに手を掛けたところで――俺と目が合った。
「お待たせしました。すみません、少し手こずってしまいまして」
笑みを浮かべてすまなそうに謝辞を述べた古泉は、眼鏡を外しかけた手を元に戻す。
「……」
なぜここで押し黙らずにいられようか!
今のは俺が悪いのか?いいや、古泉が悪い。そうだ、古泉が悪い。
眉間に皺を寄せて黙り込んでいる俺の姿を怒っていると判断したらしい古泉は、恐る恐ると口を開いて弁解の言葉を並べ立て始めた。
それらを悉く無視してやると、諦めたように古泉は立ち上がり、俺の隣へ同じようにベッドを背凭れにして腰を下ろす。
落ち着かないようにそわそわと視線をテレビに向けていたかと思うと、突然真横から鼻がぶつかりそうになる程の至近距離に顔を寄せられる。
「観念しますから、機嫌を直して頂けませんか?」
いつもながらの唐突な動きに腰が引けるが、僅かに顔を背けるに留まる。
「おや、どうしたものでしょうか」
顔が近い、とあなたに一喝されると思いましたが、と言って古泉は前傾姿勢を正した。
「そりゃ五割……いや、八割は効果が減少だからな」
「……効果?」
疑問符を浮かべる男を眉を潜めてじっと見返してやれば、目元にはきらりと光を返す銀色の眼鏡。
ああ、やはり面白くない。
たかが一枚の薄っぺらい透明な遮蔽物で、人間の知覚し得る物理的距離の変動はいかほどか。
かの宇宙人のようにナノだとかゼプトメートル単位で動くやつを除けば、圧倒的大多数の一般庶民の日常において、たかが数ミリ単位の誤差が、視覚の認識に変化をもたらす異常に繋がることはほぼ無いに等しい。
しかし、されど一枚、されど数ミリ、なのである。
人間の特権は想像力である、と定義づけた歴代の方々を今ならば否定できまい。いくら合理的な数式を用いたところで、人間は想像に左右される悲しい性を捨て去ることはできないのだ。自分も例に漏れず。
古泉は目の前で「待て」と言われた犬のようにじっと俺の発言を待っている。
なぜ古泉ごときによって俺は真理か何かの扉を開かねばならんのだ、という釈然としない思いを抱えるが、一度開けてしまった扉は残念ながら気付かぬ前に戻ることを許してはくれないようである。
「なあ、古泉よ」
はい、と律儀に言葉を返した男は実に忠犬そのものである。
ここまで来たら種明かしなどもはや不要かもしれないが、目の前の男がそれを理解していない限り同じ考察過程を繰り返すという悪循環を考えれば、いい加減に不機嫌の理由を明言することで意思の疎通を図り、お互いに歩み寄ることが最善の策であるだろう。
「……これはあくまで俺の主観的な意見に過ぎないが、」
「なんでしょう」
リモコンを引き寄せて、テレビの電源をぷつりと切る。
「俺に眼鏡属性はないんだ」
至極真面目な顔で告げると、呆けたような表情を浮かべた男の薄茶色の髪を退けて、耳に掛かる銀色のつるに両の手を掛けた。
【勿体ぶってご高説を垂れる奴ほどつまりは同じことしか言っていない――眼鏡は萌えに入りません】
たかが数ミリのレンズに心的距離の隔たりを感じざるを得ない人間の性に悲しくなるね、俺は。
「眼鏡は装着か非装着か、それが問題だ」――――――一介の男子高校生、敢えて名乗るならジョン・スミス
20100608
***
*しかし私は眼鏡萌えです
*この古泉は少し(?)お間抜けです。キョンもちょっと阿呆です
美しく装い飾ることが目的である以上当然である訳だが、実用的な品であってもそれが身体の目に触れる箇所に着用される場合は、上記のアクセサリーと同様の傾向が見られると言えるだろう。腕時計が良い例である。
各種ごとに機能に差が少ない(要は時間が正確に分かればいいのだ、むしろそうでなければ時計とは言えない)という点を除いても、文字盤の作りやチェーンの細工がどうであるかに購入の判断基準を設ける人がほとんどだと言えば、世俗的な感覚をお持ちの方にはお分かり頂けるのではないだろうか。
(ちなみに面倒かつ論旨から逸れるので、機能美に関しては敢えて無視していることをご了承願いたい)
殊に目につきやすい顔の周りであれば、余計に外観への比重は増す。
つまり、古くは高額の視力矯正器具及び遮光器具であったものが今やファッションアイテム(いわゆる伊達と呼ばれる類だ)と化し、また一部ではステータス(いわゆる萌え、とかいう、その、アレだ)として扱われていることも、やはりそれが顔という最も目につく部位の一部を彩るからには自然な流れであるということだ。
しかし、ここでひとつ、立ち止まって頂きたい。
冒頭より、身の回りの装飾品(及び実用品)はいかに美への比重が置かれてきたかについてなぞってきた訳であるが、果たして論じるべきは装飾品のまさしく「装飾」の美的観点のみにあって良いものなのであろうか。
発表者としてはむしろ、実用品を含めた装飾品の美的造形性の如何ばかりを問う姿勢を改め、より二項対立的な次元から、言ってしまえば1か0かの次元からの問いを投げ掛けてみたいのである。
余りに勿体ぶって一体何の話かと問われれば、大したことはない、もはやお察しかもしれないが──「眼鏡」の話である。
もはや勝手知ったるなんとやら、の域に達した古泉の部屋は、俺にもそこそこ居心地の良い空間と化してきている。
来訪者を受け入れる態勢を全く整えていなかった住居には当初、棚に揃いのグラスさえ備えられていなかった。
それが機関の福利厚生の手薄さや経費削減の方針によるものなのか、はたまた勤労奉仕者自身の「不徳の致すところ」に類するものなのかどうかはさておき、ようやく男二人が最低限の快適さを得られる空間となったことには、部屋を訪れるなりクッションやらスプーンやらを買いに走った俺の努力に与る所が大きいと言えるだろう。
あまつさえ二人分の歯ブラシすら常備させてしまったのだから文句のつけどころがない(この点に関しては余り言及しないで頂きたいと切に願うばかりである)。
話が逸れた。とにもかくにも現在俺は古泉の家でそれなりにくつろいでおり、つまらない回想に頭を使う程には暇を持て余しているということを察して頂ければ良いのである。
金曜日の放課後、明日は休み、と来れば余りにもお膳立てされているようで若干の抵抗を感じたものの、ずるずると惰性に引き摺られた結果、いつも通り俺は古泉の家に泊まりに行くことになった。
簡単に夕食を済ませたところで俺はテレビと、古泉はパソコンへと、それぞれ別の物に向き合い始めてそろそろ1時間が経つ。
古泉は依然としてキーを休むことなく叩いているが、俺の方はといえばチャンネルの切り替えにもいい加減飽きたところだった。ベッドを背凭れにして床に座り、当たり障りのないバラエティ特番をかけ流しながら、ちらりと横目で古泉に視線をやる。
古泉は制服の上着を脱いだシャツ姿であぐらをかき、食卓と兼用のテーブルの上に置いたノートパソコンの画面を見つめている。古泉の視線が動いて、お、と思ったが、どうやら手元の書類と画面を見比べただけでこちらの視線には気付いていないようである。つまらん。マウスを握り直してまた作業を続行している。
憎たらしい程に整った顔立ちは学校にいる時と全く変わらず、俺に接する態度も概ね、おおよそ、殆ど(大事なことだから三回言った)変わらないが、外観で言うならば一つだけ、家の中では明らかに違うところがある。
古泉が時折鼻の背に手をやること──つまりは眼鏡をしているということだ。
「お前、視力悪かったのか」
古泉が余りにも自然に眼鏡を取り出したものだから、思わず声が上擦ってしまった。
初めて古泉の部屋で勉強会を行った時のことである。
「ああ、そうでした」
一瞬何を言われたのかわからない、という顔をした古泉だったが、俺の視線が自分の目元に釘付けになっていることに気づいて、ブリッジをくい、と動かした。
「念の為、涼宮さんには内緒にしておいて下さいね」
にこ、という音でもしかねんような笑みを見せる。細められた目はレンズの奥にまるまる収まる。
本人に聞くところによると、裸眼でも日常生活にさほど影響はないが、年々少しずつ視力が下がり始めているらしい。家の中でパソコンを使用する時や勉強をする時には眼鏡を掛けるようになったのだという。授業時でもそろそろ使用したいとのことだったが、将来的には機関が推奨するコンタクトを使用する確率の方が高いだろうとの話だった。
そんなにも驚くようなことですか?と問われたことにも驚いたが(機関にもなぜ眼鏡よりコンタクトを指示されたのか今一つわからないのだという。これもまた驚きだ)、いずれにせよ古泉の眼鏡姿が俺にとって心の一部を大きく揺さぶるほど衝撃的であったことは言うまでもない。
カタカタ、と古泉がパソコンのキーを打つ音と共に、銀のメタルフレームが僅かに揺れて蛍光灯の光を反射する。
眼鏡はファッションアイテム、な現代において古泉の眼鏡を形容するならば、どことなく奥ゆかしいというか、まさしく矯正器具本来の有り様であると言えるだろう。視力を矯正するという目的に逸れず、最も忠実に則った結果生まれたものがそれだ、と言っても過言ではない。眼鏡のアレテーが「よく見えること」であるのなら、プラトンも太鼓判を押したに違いない一品だ。
ふむ、いつまでも歯に衣を着せたような物言いばかりをしていては話が進まない。
はっきりと申し上げよう。
ダサい。
平日の昼過ぎ、チャンネルを回した瞬間に明らかに年代物だと判断できるテレビドラマを見かけた時のように、一目でわかる。ダサい。
念の為補足しておくが、銀縁眼鏡を一概に不格好だと括っている訳ではない。かの会長殿や敏腕会社員のようにびしりと決める方々もいらっしゃる(こちらはシルバーフレームと称した方がしっくりきそうだ)。あくまで古泉の眼鏡が垢抜けていないだけなのである。
なんだ、その妙に半径の大きい円を描いたレンズは。視野を余すことなく補えるとでもいうのだろうか。些か大きいどころか過剰と言える寸法だと思うのは俺だけか?
そいつを掛けたまま3D映画用眼鏡でも掛けてみろ。大衆万人が一様に利用できるよう、一部利用者にとってはずり落ちる程若干大きめに設計された最新技術の眼鏡でさえ、規格外だから覆い切れないと泣いて訴えるだろうよ。ああ間違いない。
やけに大きめの丸レンズと銀縁。しかもフレームがやたら光を反射してきらきらと輝くのだ。これだけでも十分に時流からやや外れたものであるとご理解頂けることかと思う。
おまけにその眼鏡の主がそこらの平均的な顔立ちの野郎ではなく、無駄にきらきら輝いた紳士だか王子だかの面をした野郎だから、尚更性質が悪い。体を張った嫌味としか思えない(誰も得する奴がいない)!
ああ、ねじが緩いのかパッドがぐらぐらと揺れている。ずり落ちるのを何度も直すせいか、レンズも指紋がついてやがる(なぜ気付かない!)。手入れしろ!
いかん、憐れみに混じって腹の底がふつふつと煮え立つばかりである。
だが、俺が古泉の眼鏡姿に胃の腑がむかむかとする思いを感じるのは、残念ながら、あまりにも当世風でないとか不釣合だとかといういわゆる容姿に関する問題では無いのである。もっと単純で初歩的な、とてつもなくくだらないがいかんせん譲りがたい理由なのである。
ふう、と古泉の口から溜息が一つ漏れて、キーの音が止まる。マウスを何度か動いた後、シャットダウン音が流れた。作業が終わったらしい。
古泉はぱたんとノートパソコンを閉じて、瞬きを繰り返す。そうして眼鏡のつるに手を掛けたところで――俺と目が合った。
「お待たせしました。すみません、少し手こずってしまいまして」
笑みを浮かべてすまなそうに謝辞を述べた古泉は、眼鏡を外しかけた手を元に戻す。
「……」
なぜここで押し黙らずにいられようか!
今のは俺が悪いのか?いいや、古泉が悪い。そうだ、古泉が悪い。
眉間に皺を寄せて黙り込んでいる俺の姿を怒っていると判断したらしい古泉は、恐る恐ると口を開いて弁解の言葉を並べ立て始めた。
それらを悉く無視してやると、諦めたように古泉は立ち上がり、俺の隣へ同じようにベッドを背凭れにして腰を下ろす。
落ち着かないようにそわそわと視線をテレビに向けていたかと思うと、突然真横から鼻がぶつかりそうになる程の至近距離に顔を寄せられる。
「観念しますから、機嫌を直して頂けませんか?」
いつもながらの唐突な動きに腰が引けるが、僅かに顔を背けるに留まる。
「おや、どうしたものでしょうか」
顔が近い、とあなたに一喝されると思いましたが、と言って古泉は前傾姿勢を正した。
「そりゃ五割……いや、八割は効果が減少だからな」
「……効果?」
疑問符を浮かべる男を眉を潜めてじっと見返してやれば、目元にはきらりと光を返す銀色の眼鏡。
ああ、やはり面白くない。
たかが一枚の薄っぺらい透明な遮蔽物で、人間の知覚し得る物理的距離の変動はいかほどか。
かの宇宙人のようにナノだとかゼプトメートル単位で動くやつを除けば、圧倒的大多数の一般庶民の日常において、たかが数ミリ単位の誤差が、視覚の認識に変化をもたらす異常に繋がることはほぼ無いに等しい。
しかし、されど一枚、されど数ミリ、なのである。
人間の特権は想像力である、と定義づけた歴代の方々を今ならば否定できまい。いくら合理的な数式を用いたところで、人間は想像に左右される悲しい性を捨て去ることはできないのだ。自分も例に漏れず。
古泉は目の前で「待て」と言われた犬のようにじっと俺の発言を待っている。
なぜ古泉ごときによって俺は真理か何かの扉を開かねばならんのだ、という釈然としない思いを抱えるが、一度開けてしまった扉は残念ながら気付かぬ前に戻ることを許してはくれないようである。
「なあ、古泉よ」
はい、と律儀に言葉を返した男は実に忠犬そのものである。
ここまで来たら種明かしなどもはや不要かもしれないが、目の前の男がそれを理解していない限り同じ考察過程を繰り返すという悪循環を考えれば、いい加減に不機嫌の理由を明言することで意思の疎通を図り、お互いに歩み寄ることが最善の策であるだろう。
「……これはあくまで俺の主観的な意見に過ぎないが、」
「なんでしょう」
リモコンを引き寄せて、テレビの電源をぷつりと切る。
「俺に眼鏡属性はないんだ」
至極真面目な顔で告げると、呆けたような表情を浮かべた男の薄茶色の髪を退けて、耳に掛かる銀色のつるに両の手を掛けた。
【勿体ぶってご高説を垂れる奴ほどつまりは同じことしか言っていない――眼鏡は萌えに入りません】
たかが数ミリのレンズに心的距離の隔たりを感じざるを得ない人間の性に悲しくなるね、俺は。
「眼鏡は装着か非装着か、それが問題だ」――――――一介の男子高校生、敢えて名乗るならジョン・スミス
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女性
職業:
大学生
趣味:
読書・睡眠
自己紹介:
文系大学1年生。好物はリラックマ・モノクロブー・お兄さん、三十路オジサマ。
ジャンプ・睡眠を愛します。
●好きな漫画・アニメ・ゲーム・キャラ・カプなど●
*ネウロ(只今早坂兄弟大プッシュ中)
・早坂兄弟v特に久宜・國忍・筑匪・笹+笛・筑+笛・石笹・弥子のお父さん
*xxxHoLic
・百四・遥さん
*ピースメーカー
・斉藤・山崎ススム・土方
*銀魂
・桂ァァァ・土方・銀桂
*花の名前
・京さん・蝶子ちゃん
*デスノート
・ワタリ・ヨツバの髪長い人・アイバー
*親指からロマンス
・三姫・了・夏江さん・田中・部長(天然の…)
*桜蘭高校ホスト部
・モリ先輩・
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・純情青春少年(自転車で北海道までいった子…)のお父さん・原田の妻だった人の、仕事を手伝ってたけど、病気で倒れたおじいさん
……すいません、趣味丸出しで
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