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憂梨の愛と葛藤の日々。主にジャンプ・アニメ系統。ジャンプのネタバレは月曜日から。アニメのネタばれは放送日から。ほんのり…嘘です、しっかりヲタ風味につきご注意下さい。女性向(BL)含みます。
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2024/11/21 (Thu)
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2010/06/08 (Tue)
 ネックレス、ピアス、ブレスレット。身の回りの装飾品は、実用性よりも美的造形性、要は色やデザインなりの「美しさ」が重視される傾向にある。

美しく装い飾ることが目的である以上当然である訳だが、実用的な品であってもそれが身体の目に触れる箇所に着用される場合は、上記のアクセサリーと同様の傾向が見られると言えるだろう。腕時計が良い例である。
各種ごとに機能に差が少ない(要は時間が正確に分かればいいのだ、むしろそうでなければ時計とは言えない)という点を除いても、文字盤の作りやチェーンの細工がどうであるかに購入の判断基準を設ける人がほとんどだと言えば、世俗的な感覚をお持ちの方にはお分かり頂けるのではないだろうか。

(ちなみに面倒かつ論旨から逸れるので、機能美に関しては敢えて無視していることをご了承願いたい)

 殊に目につきやすい顔の周りであれば、余計に外観への比重は増す。

 つまり、古くは高額の視力矯正器具及び遮光器具であったものが今やファッションアイテム(いわゆる伊達と呼ばれる類だ)と化し、また一部ではステータス(いわゆる萌え、とかいう、その、アレだ)として扱われていることも、やはりそれが顔という最も目につく部位の一部を彩るからには自然な流れであるということだ。

しかし、ここでひとつ、立ち止まって頂きたい。
 冒頭より、身の回りの装飾品(及び実用品)はいかに美への比重が置かれてきたかについてなぞってきた訳であるが、果たして論じるべきは装飾品のまさしく「装飾」の美的観点のみにあって良いものなのであろうか。

発表者としてはむしろ、実用品を含めた装飾品の美的造形性の如何ばかりを問う姿勢を改め、より二項対立的な次元から、言ってしまえば1か0かの次元からの問いを投げ掛けてみたいのである。
 
 余りに勿体ぶって一体何の話かと問われれば、大したことはない、もはやお察しかもしれないが──「眼鏡」の話である。




 もはや勝手知ったるなんとやら、の域に達した古泉の部屋は、俺にもそこそこ居心地の良い空間と化してきている。

 来訪者を受け入れる態勢を全く整えていなかった住居には当初、棚に揃いのグラスさえ備えられていなかった。
 それが機関の福利厚生の手薄さや経費削減の方針によるものなのか、はたまた勤労奉仕者自身の「不徳の致すところ」に類するものなのかどうかはさておき、ようやく男二人が最低限の快適さを得られる空間となったことには、部屋を訪れるなりクッションやらスプーンやらを買いに走った俺の努力に与る所が大きいと言えるだろう。
 あまつさえ二人分の歯ブラシすら常備させてしまったのだから文句のつけどころがない(この点に関しては余り言及しないで頂きたいと切に願うばかりである)。

 話が逸れた。とにもかくにも現在俺は古泉の家でそれなりにくつろいでおり、つまらない回想に頭を使う程には暇を持て余しているということを察して頂ければ良いのである。



 金曜日の放課後、明日は休み、と来れば余りにもお膳立てされているようで若干の抵抗を感じたものの、ずるずると惰性に引き摺られた結果、いつも通り俺は古泉の家に泊まりに行くことになった。

 簡単に夕食を済ませたところで俺はテレビと、古泉はパソコンへと、それぞれ別の物に向き合い始めてそろそろ1時間が経つ。

 古泉は依然としてキーを休むことなく叩いているが、俺の方はといえばチャンネルの切り替えにもいい加減飽きたところだった。ベッドを背凭れにして床に座り、当たり障りのないバラエティ特番をかけ流しながら、ちらりと横目で古泉に視線をやる。 

 古泉は制服の上着を脱いだシャツ姿であぐらをかき、食卓と兼用のテーブルの上に置いたノートパソコンの画面を見つめている。古泉の視線が動いて、お、と思ったが、どうやら手元の書類と画面を見比べただけでこちらの視線には気付いていないようである。つまらん。マウスを握り直してまた作業を続行している。

 憎たらしい程に整った顔立ちは学校にいる時と全く変わらず、俺に接する態度も概ね、おおよそ、殆ど(大事なことだから三回言った)変わらないが、外観で言うならば一つだけ、家の中では明らかに違うところがある。
 古泉が時折鼻の背に手をやること──つまりは眼鏡をしているということだ。 



「お前、視力悪かったのか」

 古泉が余りにも自然に眼鏡を取り出したものだから、思わず声が上擦ってしまった。
初めて古泉の部屋で勉強会を行った時のことである。

「ああ、そうでした」

 一瞬何を言われたのかわからない、という顔をした古泉だったが、俺の視線が自分の目元に釘付けになっていることに気づいて、ブリッジをくい、と動かした。

「念の為、涼宮さんには内緒にしておいて下さいね」
にこ、という音でもしかねんような笑みを見せる。細められた目はレンズの奥にまるまる収まる。

 本人に聞くところによると、裸眼でも日常生活にさほど影響はないが、年々少しずつ視力が下がり始めているらしい。家の中でパソコンを使用する時や勉強をする時には眼鏡を掛けるようになったのだという。授業時でもそろそろ使用したいとのことだったが、将来的には機関が推奨するコンタクトを使用する確率の方が高いだろうとの話だった。

 そんなにも驚くようなことですか?と問われたことにも驚いたが(機関にもなぜ眼鏡よりコンタクトを指示されたのか今一つわからないのだという。これもまた驚きだ)、いずれにせよ古泉の眼鏡姿が俺にとって心の一部を大きく揺さぶるほど衝撃的であったことは言うまでもない。



 
 カタカタ、と古泉がパソコンのキーを打つ音と共に、銀のメタルフレームが僅かに揺れて蛍光灯の光を反射する。

 眼鏡はファッションアイテム、な現代において古泉の眼鏡を形容するならば、どことなく奥ゆかしいというか、まさしく矯正器具本来の有り様であると言えるだろう。視力を矯正するという目的に逸れず、最も忠実に則った結果生まれたものがそれだ、と言っても過言ではない。眼鏡のアレテーが「よく見えること」であるのなら、プラトンも太鼓判を押したに違いない一品だ。

 ふむ、いつまでも歯に衣を着せたような物言いばかりをしていては話が進まない。
 はっきりと申し上げよう。
 ダサい。
 平日の昼過ぎ、チャンネルを回した瞬間に明らかに年代物だと判断できるテレビドラマを見かけた時のように、一目でわかる。ダサい。

 念の為補足しておくが、銀縁眼鏡を一概に不格好だと括っている訳ではない。かの会長殿や敏腕会社員のようにびしりと決める方々もいらっしゃる(こちらはシルバーフレームと称した方がしっくりきそうだ)。あくまで古泉の眼鏡が垢抜けていないだけなのである。

 なんだ、その妙に半径の大きい円を描いたレンズは。視野を余すことなく補えるとでもいうのだろうか。些か大きいどころか過剰と言える寸法だと思うのは俺だけか?

 そいつを掛けたまま3D映画用眼鏡でも掛けてみろ。大衆万人が一様に利用できるよう、一部利用者にとってはずり落ちる程若干大きめに設計された最新技術の眼鏡でさえ、規格外だから覆い切れないと泣いて訴えるだろうよ。ああ間違いない。

やけに大きめの丸レンズと銀縁。しかもフレームがやたら光を反射してきらきらと輝くのだ。これだけでも十分に時流からやや外れたものであるとご理解頂けることかと思う。

 おまけにその眼鏡の主がそこらの平均的な顔立ちの野郎ではなく、無駄にきらきら輝いた紳士だか王子だかの面をした野郎だから、尚更性質が悪い。体を張った嫌味としか思えない(誰も得する奴がいない)!

 ああ、ねじが緩いのかパッドがぐらぐらと揺れている。ずり落ちるのを何度も直すせいか、レンズも指紋がついてやがる(なぜ気付かない!)。手入れしろ!
 いかん、憐れみに混じって腹の底がふつふつと煮え立つばかりである。

 だが、俺が古泉の眼鏡姿に胃の腑がむかむかとする思いを感じるのは、残念ながら、あまりにも当世風でないとか不釣合だとかといういわゆる容姿に関する問題では無いのである。もっと単純で初歩的な、とてつもなくくだらないがいかんせん譲りがたい理由なのである。



 ふう、と古泉の口から溜息が一つ漏れて、キーの音が止まる。マウスを何度か動いた後、シャットダウン音が流れた。作業が終わったらしい。

 古泉はぱたんとノートパソコンを閉じて、瞬きを繰り返す。そうして眼鏡のつるに手を掛けたところで――俺と目が合った。

「お待たせしました。すみません、少し手こずってしまいまして」

 笑みを浮かべてすまなそうに謝辞を述べた古泉は、眼鏡を外しかけた手を元に戻す。


「……」

 なぜここで押し黙らずにいられようか!
 今のは俺が悪いのか?いいや、古泉が悪い。そうだ、古泉が悪い。

 眉間に皺を寄せて黙り込んでいる俺の姿を怒っていると判断したらしい古泉は、恐る恐ると口を開いて弁解の言葉を並べ立て始めた。
 それらを悉く無視してやると、諦めたように古泉は立ち上がり、俺の隣へ同じようにベッドを背凭れにして腰を下ろす。
落ち着かないようにそわそわと視線をテレビに向けていたかと思うと、突然真横から鼻がぶつかりそうになる程の至近距離に顔を寄せられる。

「観念しますから、機嫌を直して頂けませんか?」

 いつもながらの唐突な動きに腰が引けるが、僅かに顔を背けるに留まる。

「おや、どうしたものでしょうか」

 顔が近い、とあなたに一喝されると思いましたが、と言って古泉は前傾姿勢を正した。

「そりゃ五割……いや、八割は効果が減少だからな」
「……効果?」

 疑問符を浮かべる男を眉を潜めてじっと見返してやれば、目元にはきらりと光を返す銀色の眼鏡。

 ああ、やはり面白くない。

 たかが一枚の薄っぺらい透明な遮蔽物で、人間の知覚し得る物理的距離の変動はいかほどか。
かの宇宙人のようにナノだとかゼプトメートル単位で動くやつを除けば、圧倒的大多数の一般庶民の日常において、たかが数ミリ単位の誤差が、視覚の認識に変化をもたらす異常に繋がることはほぼ無いに等しい。

 しかし、されど一枚、されど数ミリ、なのである。

 人間の特権は想像力である、と定義づけた歴代の方々を今ならば否定できまい。いくら合理的な数式を用いたところで、人間は想像に左右される悲しい性を捨て去ることはできないのだ。自分も例に漏れず。

 古泉は目の前で「待て」と言われた犬のようにじっと俺の発言を待っている。
なぜ古泉ごときによって俺は真理か何かの扉を開かねばならんのだ、という釈然としない思いを抱えるが、一度開けてしまった扉は残念ながら気付かぬ前に戻ることを許してはくれないようである。

「なあ、古泉よ」

 はい、と律儀に言葉を返した男は実に忠犬そのものである。

 ここまで来たら種明かしなどもはや不要かもしれないが、目の前の男がそれを理解していない限り同じ考察過程を繰り返すという悪循環を考えれば、いい加減に不機嫌の理由を明言することで意思の疎通を図り、お互いに歩み寄ることが最善の策であるだろう。

「……これはあくまで俺の主観的な意見に過ぎないが、」

「なんでしょう」

 リモコンを引き寄せて、テレビの電源をぷつりと切る。

「俺に眼鏡属性はないんだ」

 至極真面目な顔で告げると、呆けたような表情を浮かべた男の薄茶色の髪を退けて、耳に掛かる銀色のつるに両の手を掛けた。


【勿体ぶってご高説を垂れる奴ほどつまりは同じことしか言っていない――眼鏡は萌えに入りません】


 たかが数ミリのレンズに心的距離の隔たりを感じざるを得ない人間の性に悲しくなるね、俺は。




「眼鏡は装着か非装着か、それが問題だ」――――――一介の男子高校生、敢えて名乗るならジョン・スミス

20100608

***



*しかし私は眼鏡萌えです
*この古泉は少し(?)お間抜けです。キョンもちょっと阿呆です
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2009/07/19 (Sun)
滴り落ちる赤黒い血を堰き止めて、裂けた傷口を塞ぎ(覆い)尽くせばすべて、

(元通りになるのなら、)


 顔面を占める白い傷跡の印。包帯を幾重にも巻きながら、いつか彼に告げられた言葉を思い出す。

 (“お前、忍者に向いてないんじゃないのか”)


 静まり返った夜更けの医務室、伊作がひとりきりであることを見計らったかのように雑渡が訪れることは、まだそれほど多くはない。
 “少し”遠出した帰りだというのが大抵の言い訳で、大半の場合においてどこかかしら傷を負っている。
 例に漏れず“遠出”したという雑渡だが、今回は目立った外傷はない。その代りに告げた言葉が、「頭巾結んでくれない?」だったことには絶句してしまうのも無理はないだろう。


 「それにしても君、包帯まで巻き直してくれるなんてねえ」

 まあそんな気はしてたけど、と付け加える。乱れた頭巾を結び直そうとしたところ、頭部を覆う包帯の、あまりの緩みぶりが目に入り、申し出た次第である。
 言葉の割に、驚いた素振りは微塵も感じられない。どちらかといえばあえて確認することで感慨に耽っているというか、改めて呆れているというか、(いや、むしろ、)

「…ええ、だって、」

僕は、

「“保健委員だから”?」
 
 皮肉であっても応えようとした僕の言葉は闇にばくりと切り取られる。ひゅう、と燭台の火が風に吹かれて小さく息を飲む。



 ゆらり、ゆらりとひかりが揺れる。風が出てきたらしい、そうだ、戸は開け放したままだった。机の上に広げた鈍い鼠色の細身の医療器具が、火の形のざわめく度にちかちかと光を返して、その直線の身体がぐにゃりと歪み、戻り、また歪む。

 肺に吸い込んだ空気の冷たいこと、ああ今は夜だった、だから垣間見える外は暗闇に慣れたこの目でも底知れず、目の前は明度の低い色彩に支配されている。……替えたばかりの左目の包帯の白を除いて。(彼の目が見た目通りに白いというのならば、とっくに僕は烏に身体をつつかれている。)
 

 鈍い、光。形を留めずとも揺らめくことのない視線は、針のように突き刺さり、その細さに乗るにふさわしからぬ圧迫感で僕を押し潰す。

 (されど、)

 口を閉ざしたまま、右手に置いた急須から程良く蒸らした茶を淹れる。いわゆる「欠けた茶碗で粗茶を出す」、なのかなあ、「不運」続きの医務室に当初の姿のままで残る湯呑み(に限らずであるが)は、ないと言って正しい。出来る限り湯呑みの損壊した部分の目立たない向きを選んで彼に手渡す。

 くるくると湯呑みを二、三度回し、慣れたものなのだろう、包帯をしたまま器用に茶を飲むと、ふ、と湯気ともため息ともつかぬ煙が上がる。

 「…どうして、皮膚が柔らかいのだと、思いますか」

 こぽこぽ、と愛用、とはいえ保健室共用の湯呑みに自分の茶を注ぐ。彼の喉仏を下る液体が、こくりと音を立てるのと同時に。
   
 「……ううん、難題だねえ」

 だって柔らかいものは柔らかいんだもの、と答えにもならない応えを返す彼のやり口は、実に「忍」らしい。(しかし元々、疎通など図ろうとはしていない、多分お互いに)。

 「……誰かの痛みを知るためだと、僕は思っています」

促されるがまま、二の句を告げる。流れ出る血の意味を知るため、とも付け加えれば、煙の向こうで霞んだ目が、細められる。

 彼は何も言わずにこくり、こくりと喉を鳴らす。かつり、と床に響く音がしたかと思えば、眼前から彼が消える。

 あ、と思った瞬間には鈍色の矢──傾斜の強められた右目に真横から射抜かれていた。首筋に突き付けられた苦無はやっぱり黒かった。この人はほんとうに真っ黒だ。 
 
 「…っ、」

 ぴり、と首に走る痛み。朱が一筋、つう、喉をと伝って鎖骨に落ちる。

 彼は、なにも言わない。
右の親指で逆さから首筋の血を拭うと手を離し、そのまま血の付いた指を自身の口元にあてがう。舌は赤いのだなあ、と思ったとたん、がり、と小さな音がする。唇から覗くのは硬質な歯の白さ。
 裂けた親指からぽたり、ぽたりと朱色が落ちて、腕に巻かれた包帯に染みができる。ずい、と伊作の口元に差し出されたのは、厚い皮の噛みちぎられた皮膚以外の何物でもない。

 「なに、を、」

 「舐めて」

 まるで当然のことのように、否応なく押しつけられた指からは、生温い鉄の味がして、少し、茶請けに出した煎餅の塩の味がした。

 「ああ、君の肌はほんとうに柔らかいね」
 
 空いた右の指が、頬骨をなぞるように這う。染みの付いた右腕は、彼の部下、恐らく僕とそう年端の変わらない、を彷彿とさせた。



 もう血の流れることのない首元を擦りながら彼を見やれば、見えもしない口角が少し上がったような気がした。


 滴り落ちる赤黒い血を堰き止めて、裂けた傷口を塞ぎ尽くせばすべて、元通りになるのなら、それこそ、


(僕は、きっと、ここにはいない)

 
 私の味、覚えてね、と唐突に姿を消した彼の温度など座布団に残るだけで十分であった。
ぽつん、と心許なさそうに立つ、空の湯呑みを片づけようと手を伸ばす。
 彼に向いていたのは、ひびがありありと入り、少し歯を立てればすぐにでも割れてしまいそうな、傷の最も深い面だった。

2009/07/05 (Sun)
*「古泉一樹の消失」設定です(NOT公式)
*古泉が1年生の冬に世界から消されてしまって、古泉に関する記憶があるのがキョンだけ、といういかにもなおはなしです
 (必然的にキョンたちは2年生です)
*古→←キョンの関係が前提です(くっついてはいない)
*「笹の葉ラプソディ」(小説、アニメ(二期)共に公式のおはなし)のネタバレがあります


それでもよろしければどうぞ!











 「こりゃまたなんだ、父親がバックミラーに吊り下げるような車のアレか?」
 いかにもそこらにあったものを切りました、的な手作り感アピール過剰の、色も形もまちまちの紙片のひとつ、顔に似合わず乱雑な文字(更におざなり感が増しているが本人にそのつもりはないのだろう)がでかでかとのたくっているそれを見やりながら問うたのは、あまりにもその文句がベタかつ一高校生、一青少年らしからんかったからなのだろうな。

 「アレって言ったらアレだ、年の暮れからやれ人形祓いだ、明けたと思えばやれ二礼二拍手一礼だのと口を酸っぱくする一家の大黒柱様とやらがようやく姿を消して、こたつに潜り甘酒の匂いを嗅ぎながらまたひとつ年中行事も消化したなと感慨にふける頃に、さもありがたからんと誇張しながらいそいそと、何の為やらばかでかい収容人数を誇る愛車に取り付けるような手のひらサイズの長方形、結い目開かずの布包みだよ。」

 あなたの家庭ではそのように新年を迎えられるのですね、と妙に感慨深げに溜息を落とされては、眼前の嫌味はさておき、時節にふさわしからぬ話をせずにはいられないではないか。



 「で?キョンはなんて書いたの?」

 期末試験の終わった七月の昼下がり。夜空に住まう、恋路を隔てられた二人の恋人が、年に一度の逢瀬を果たす数時刻前。
 やることは一年前と寸分違わない。部室で冬を越え、春を迎えた哀れな笹の葉に、資料室からかっぱらったであろう色付きの画用紙を切って、これまたどこから連れて来たのかわからないマジックで各々のささやかもしくは大それすぎた願いを書き入れる。(同じでなかったのは文系の俺には必要のないようなベガ・アルタイル講義がなかっとことと、あと、)

 「ばっかねえ、あんた地学専攻でしょ?星座だってそのうち習うに決まってるじゃない、それより、」

 誰より早く書き終え、短冊を吊るしたハルヒが、マジックを置いて終了の合図を示した俺の元へ、ずい、と満々の笑みで手を伸ばす。

 やれやれ、どうせ読まれるのは仕方がないと思っていが、やっぱり来るか。いや、爛々と目を輝かせても。さっきも現社で言っていただろう、人権侵害、プライバシーの保護。

 「納税の義務を怠っているような市民にそんなこと、知ったことじゃないわ!」

 おいハルヒ、それを公言したら一発でどこぞの議員よろしく大臣罷免ものだからな。ちなみに純然たる高校生様には年金問題も蚊帳の外なれば、定額給付金も当社比二倍であると知らないわけではあるまい。

 「そうやって言葉を重ねれば重ねるだけ不信感は増していくのよ、高支持率を維持した首相を見なさい、要は一言で言い切ることが大事なのよ。自ずから結果はついてくるわ!」

 極めて理路整然とした反論を独断的な一言で片付ける方がよっぽど悪い方向に世論を騒がせはしまいか?と異議を唱える間もなく、個人情報の詰まったペラい紙切れは我が独裁者の手に渡ったのであった。無念。

 何を期待するのやら、ご自分の席にお座りになった団長様は、ニヤついた顔でまだシンナー臭の残る文字を一瞥。一瞬きょとん、としたかと思えば、すぐさま口を尖らせる。

 「ちょっと、モミの木と間違ってるんじゃないでしょうね」

 サンタクロース殿への「良い子にしてました」報告だとでも言いたいのか?残念ながらそれはドジっ子にしてはいささかベタすぎる設定でありやしまいか、涼宮議員。

 「一年でこんなに願い事が変わるだなんて信用性の問題だわ、ベガとアルタイルがあんたのマニュフェストを聞いたとしたら不支持どころか弾劾もいいところよ!」

 確かに、去年のお前の評価からすると「俗物」的であるらしい願い(至って俺は有用性を重視したつもりであるが、)とは類を異にするだろうさ。ま、不支持でいいからとりあえず執行猶予くらいは与えてやってくれ。

 「まさか、適当に書いたんじゃないでしょうね。」

 いいや、党首の同意は得られずとも、俺は至極大真面目だ。

 「…ふうん。ま、あんたに似ず将来有望、期待の新星たる妹ちゃんを大事にすることはいいことだわ。ちゃんと家族サービスしないと痛い目見るのはあんたなんだしね」

 おいこら、少なくともはさみに始まり合宿同伴許可に続く、俺の妹への涙ぐましい思いやりの数々は家族サービスたるに十分値すると思うぞ。

 「さ!とっとと飾っちゃいましょ!」

 党員の意見にはすべて「考慮します」で応える気らしいな。涼宮議員の秘書は胃を苛まれること間違いなしだ。お察しする。

 ハルヒは長門と朝比奈さん(どちらも問答無用で奪い去った)の短冊もくくりつけた後、笹の根本を両手で持ち、「みくるちゃん、手伝って!」と、笹をわさわさと振り回している。まさかそれは神社で使うような白いピラピラのついた棒のつもりではないだろうな。全く、正月でもあるまいし。夏を心待ちにしたベガとアルタイルが見たら卒倒するぞ。


 「世界」だなんて、俺のような一小市民にふさわしからぬ、手に余るどころか身を何度滅ぼしてもおつりが来る、途方もない大きさの平和など、願っちゃあいないさ。
 だがな、バックミラーに吊るす幸せくらいなら、一高校生、一青少年が願ったところで神様だって構わんだろうよ。



 「家内安全」



 (今年も親父の愛車に四文字は揺れている。揺れているんだよ、なあ、)


***
補足

キョンたちが二年生(キョンが地学専攻なのは私の趣味)、古泉消失後の七夕です
原作を読んだ方にはご存じすぎると思いますが「笹の葉ラプソディ」で古泉が短冊に書いた願い事は「世界平和」と「家内安全」です

あとお守りをバックミラーに吊り下げるのが一般的かどうかはよく知らないんですが…ていうかもしかすると道路交通法とやらに引っかかる?父さん!
 

2008/03/06 (Thu)
グレンラガン観てきたどー!!
最初の3話までは観てたので、今日は4~7話観てきました!
次回予告で兄貴が危ないのを察知したところで中断したので、
すんごいもやもやしています…
いや、知ってるんだ、兄貴がどうなるのかはさ…うわああん

それにしてもこのアニメ、朝やるにはちょっと肉づきがよすぎやしませんか?ニコ!
まじめなデコくんかんわいいです。
ヨーコちゃんに下品とかいったりして…んもう!
でもめくっちゃう兄貴が一番だめだと思うZO☆(バチコーン☆

それにしても兄貴は名言が多すぎてすばらしすぎる…
俺はお前を信じる、だからお前はお前を信じる俺を信じろおおおおおお!みたいな!
わけわかんねえよ!ちくしょーすばらしー!
もう兄貴ついてきますよ!こりゃもう!

さて、これからちょっと目を休めたら夕飯のお買い物に…お、なんか主婦っぽいな!
一応まだ10代だけど…しかもその前にアニメ鑑賞ってのがちょっと違うけどな!
あにき
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プロフィール
HN:
憂梨(ゆり)
性別:
女性
職業:
大学生
趣味:
読書・睡眠
自己紹介:
文系大学1年生。好物はリラックマ・モノクロブー・お兄さん、三十路オジサマ。
ジャンプ・睡眠を愛します。

●好きな漫画・アニメ・ゲーム・キャラ・カプなど●

*ネウロ(只今早坂兄弟大プッシュ中)
・早坂兄弟v特に久宜・國忍・筑匪・笹+笛・筑+笛・石笹・弥子のお父さん

*xxxHoLic
・百四・遥さん

*ピースメーカー
・斉藤・山崎ススム・土方

*銀魂
・桂ァァァ・土方・銀桂

*花の名前
・京さん・蝶子ちゃん

*デスノート
・ワタリ・ヨツバの髪長い人・アイバー

*親指からロマンス
・三姫・了・夏江さん・田中・部長(天然の…)

*桜蘭高校ホスト部
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……すいません、趣味丸出しで

*幸福喫茶三丁目
・潤ちゃんのお父さん・進藤さん

*逆転裁判
・御剣ラブ・ナルミツ。ゴド(神)ミツ・冥・うらみちゃん・ハミちゃん

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